Hayama Cave
海沿いの崖地に建つ別荘である。施主が望んだのは、原始の人々のように洞窟で暮らすこと。それを聞いて少し驚いたが、建築の初源に戻って設計するというのは、悪くないと思った。もちろん、本物の洞窟を住居にすることはできないから、施主の前に大きな粘土の塊をごろっと置いて、空間を掘ることで設計を進めることにした。
敷地は急傾斜地で土砂崩れの危険があるため、RC造のしっかりした構造を支持地盤まで埋め込んだ。次に斜面の上に顔を出すRCの上部構造は丸岩のような形態として、万一、上部の崖が崩壊した時は土砂を左右に受け流すことにした。RC造特有の塩害や畜熱を解消するため、外側は現地の土にセメントを混ぜたものを吹き付け、屋上は土を敷いて野草の種を蒔き、根を張らせることで土の流出を防いだ。内部はサンゴや貝殻を埋めてから土を掻き落としたので、発掘に似た楽しみが生まれた。
そうして生まれたのは、土に包まれた安心感と神秘的な暗さをもった空間である。地底深く降りていく階段室。暗闇の中で聞こえるのは、自分の足音、吐く息。音が上下、左右から、即座にはね返ってくる。何か頼れるものが欲しくて、手を伸ばす。ごつごつしていて、しっとりとした肌。外界から隔離された安心感と暗闇への畏怖。ここでの人のふるまいは、その両方の感情の狭間に生まれる。
ひんやりした空気が、見えない川となってこちらに流れてくる。あらゆる生命の出発点のような、深い闇。その先には、何か自分の根源に帰って行くような懐かしさがある。ここは大地に包まれ、海のさざ波に耳をすます洞窟の家である。
- Completion
- 2013.08
- Principal use
- Villa
- Structure
- Reinforced Concrete
- Site area
- 539㎡
- Total floor area
- 338㎡
- Building site
- Kanagawa
- Structure design
- ARUP JAPAN
- Contractor
- SATOHIDE
- Team
- Tomohiko Kimura, Kosuke Horie, Yutaka Nagakura