地層の家
房総半島の海辺に建つ週末住宅である。周囲には地層がむき出しになった崖と草原が広がっている。都心の高層マンションに住む施主は、週末だけは大地と接して暮らしたいと願っていた。そこで、敷地の土を屋根や壁に用いて、大地と連続した建築を提案した。
構造は万一の津波に強く、その力を受け流すRCの門型フレームとした。屋根は外断熱を施した上に保護材兼仕上げ材として現場の土で覆い、流出防止のために野草の種をまいた。そうすれば屋根材で被覆する必要がないため、コストを抑えることができる上に、環境への負荷も少ない。
コンクリートの壁は塩害防止のため、コーティングする必要があった。そこで屋根と同じように現地の土を採用し、セメントや樹脂などを混ぜて最大55mmに厚塗りした。仕上げは住み手も一緒になって参加し、木ゴテ、金箒、ヘラなどで土を掻き落とした。あらかじめ土の中には砂利や貝を混ぜておいたために、掘るたびに何かが出てきて、発掘作業に似た楽しみがあった。
左官の工程上の時間差や掻き落とした痕跡、土の中の内容物が表出し、大地から地層が隆起したような外観となった。このデザインの決定権は、住人や職人の手と、気候や大地といった自然の側にある。形やテクスチャーは土を掻き落とす住人や施工者たちの工具にかかる力と土の固さに呼応して決まる。壁の色は、現場の土と各種材料の混合度合いによる。屋根の輪郭や色もまた、植物が決める。そして竣工後も、住人の手による剪定、風や鳥たちが運んでくる種子によって、季節に応じて変化し続けるだろう。その変遷が、唯一無二の家の歴史を刻んでいく。
住人は週末になるとここを訪れて、庭で土をいじり畑を耕し、壁や屋根を見つめ、触れる。家づくりのふるまいと、庭づくりのふるまいが同一化した住宅。暮らすほどに心と体が大地に馴染んでいく建築である。
- Completion
- 2008.09
- Principal use
- Villa
- Structure
- Reinforced Concrete
- Site area
- 826㎡
- Total floor area
- 93㎡
- Building site
- Chiba
- Structure design
- yAt structural design office
- Contractor
- Yashiro
- Team
- Yasuhiro Oani, Naoko Sumitani, Asei Suzuki
- JIA新人賞
- 新建築賞
- INAXデザインコンテスト 金賞