House with Noh Theater
高品質な住宅とブランドの旗艦店が共存する南青山の街には、インテリアやライフスタイル関連のショールームが多い。その南青山らしさを引き受けたこの建築は、上層階には能舞台を持つ住宅、低層階にはレストランやインテリアなどのショップ、オーナーサロンを有する複合施設である。
上層階の能舞台を持つ二世帯住居。クライアントは能楽一家出身で、幼い頃から稽古に励み舞台に立ってきた。
骨董通りから一筋入る敷地のため、視認性の高い場所に特殊ガラスのファサードと集いの広場を設けた。広場のために建物をセットバックしたが、それによって北側に陽の光が入ると同時に、道路斜線を超えて屹立する塔状のシンボリックな建築が、天空率計算の併用によって可能となった。広場にはレストランの屋外客席が展開し、それを囲うように立体的に設けたテラスには、ショップの賑わいや3 階のオーナーサロンからの文化的催しが染み出すだろう。
敷地は北東と北西の二つの道路に面した角地にある。独立性の高い二層×二世帯の四層のフロアを実現するために、斜線制限を緩和する天空率と呼ばれる手法を採用した。
低層階はレストランやインテリアなどのショップ、オーナーサロンを有する。
外壁の石やガラス等の各所には、能舞台のあるビルにふさわしくオーナーの流派の定紋である観世水をモチーフにした意匠や流水模様の素材感を用いた。立体成型したオリジナルガラスは、南西からの陽射しを和らげながら室内に光学的現象をもたらすと同時に、北面の骨董通り側に対しては人々を誘う煌めきとなる。また内部から見ると、近隣の雑多なノイズを滲ませ、美しい光景に変えるだろう。
3階 オーナーサロン
能舞台のある 4 階の入口正面の庭は、観世元雅による能の演目「隅田川」をモチーフにしたと言われる尾形光琳「紅白梅図屏風」に合わせて、立体的な観世水模様を掘り込んだ石製の川の両岸に、紅白の梅を植えた。再び出逢うことを望む二人の前に渦巻く川があるという、いわば天の川構図のこの庭は、再会を喜ぶエントランスに相応しいと考えた。 黒い石材は後述するように影の字を持つ御影石の鏡面仕上げとし、人ならざるものの姿を写し込む能の世界観も意識した。
4階住宅エントランスホール
能舞台は総檜造で、白洲の背後には能舞台の松の鏡板と相対するように寿の字に似た老黒松と磐座の庭を奉じた。鏡板とは磨かれた板のことで、舞台正面の神松がうつりこんだもの言われている。これは本来、能とは演者が客に向かって行うものではなく、 舞台正面の神の降臨を「待つ」神事であることを意味している。神が降臨し仮の姿を現すことを影向(ようごう)と言うが、西日を受けた老松の影が舞台に向かって黒々と影を落とす時、まさにその向こうに対して舞うという、能舞台の初源的な在り方を目指した。
絵師の福永明子氏によって、庭の松を写し取るように描かれた。
寿の字に似た老黒松
一二三(ひふみ)石と呼ばれる土間仕上げを現代的に再解釈したカーペットで表現。
庭の神松から鏡板の松を見る。
- Completion
- 2022.12
- Principal use
- Commercial, Residence
- Structure
- S+RC+SRC
- Site area
- 580㎡
- Total floor area
- 2043㎡
- Building site
- Minami-aoyama, Minato-ku, Tokyo
- Structure design
- Kanebako Structural Engineers
- Construction
- TAKENAKA CORPORATION
- Team
- Kiyonori Takaoka, Kosuke Nakakura, Takanori Maita, Eizaburo Suzuki