磐座の家
洛北の地は、山神降臨の磐座を祀る山住神社や、比叡山を借景・遥拝する庭をもつ寺院を数多く有し、山岳信仰が色濃く残っている。この地の今を生きる人びとも、比叡山を仰ぎ見て天候や季節の変化を読み、心を寄せてきた。そこでこの地に住まう人びとの山に対する感性やふるまいを引き出す庭と空間をつくろうと考えた。
敷地は民家が密集するため、中庭プランによって各居室の眺望や採光を得ることにした。基礎の掘削土を用いた築山を設けて、寝室とダイニングのお見合いを防ぎ、陽光の照り返しを各室へ分配。中心には磐座となる巨石を奉じた。磐座は極めて物質的な存在でありながら、神籬(ひもろぎ)としての超越性を併せもつ。その二面性が、小さな建築と庭に無限の広がりを与えると考えた。
庭はこの巨石を中心とした比叡山の縮景とした。株立ちのイロハモミジの近景の向こうに、スギゴケやドウダンツツジ、オカメザサといったスケールの小さな草木によって遠近感を作り、椅座の目線より下の密度を高めることで、半眼を引き出す。これは坐禅時の自然な目線であり、心の内と外の世界を同時に見る瞑想的行為である。
玄関からリビングダイニングに入る扉を開けると、大地に直立する根付き杉丸太が正面より少し芯を左にずらして立っており、右の磐座へと導かれる。
睫毛のように下垂する北山杉の磨き丸太の垂木と半眼が同期する時、時空は一気に歪む。イロハモミジの枝葉は雲、スギ苔はスギ林へと姿を変え、人はスケールを超えて、比叡山上空を浮遊する。かつて山は魂が赴く場として、仏教では浄土、修験では曼陀羅を意味すると考えられてきた。この庭は、その世界を目指す仮想体験そのものである。日本の庭の初源は祈りの場にあるといわれるが、まさしくここにあるのは、悟りや涅槃といった、安寧の風景である。
中庭に面して廊下に設えた書斎。
笏谷石の磐座。山頂には葉の小さい灯台躑躅を植えて遠景としている。
築山は中庭に面した各室へ光を拡散させる。
かつてこの地に広がっていた薄木野からぽっかりと月が出た風景を京唐紙で再現した。
大地に直立する根付き北山杉丸太の大黒柱。
- Completion
- 2020.02
- Principal use
- Residence
- Structure
- Timber
- Site area
- 303m2
- Total floor area
- 175m2
- Building site
- Kyoto
- Contractor
- Takeda Komuten
- Team
- Kunihiko Miyachi, Shinya Tani, Takahito Haneda