KOGE L∞P ARENA
私たちが同じ動作を繰り返し体に染み込ませて、考えることなく素早く動けるように練習するのは、勝負のためだけではない。ボールや競技用具が身体の一部と化し、コートがテリトリーとなった時、自分の心と体、モノ、空間、場合によってはチームメンバーとが切れ目なく繋がったような感覚が立ち上がる。それはスポーツの語源通り、日々の生活から離れた楽しみなのである。この自由に一人ひとりが自分と向き合い、心と体をひとつにしていくスポーツ独特のふるまいを建築化できないだろうか。大きな空間であっても、ふるまいが定着することで身体性の高い空間ができ、建築と人、場所と人を分かち難く結びつけることができるはずだ。 福岡県上毛町から求められたのは、老朽化したトレーニングセンターと健康増進施設を集約し、生涯スポーツやコミュニティの拠点として、「地域との深い繋がり」を創造することだった。一般的に体育館は特定のスポーツの予約者以外を受け付けない閉鎖性がある。そこで従来の体育館機能に加えて、散歩や軽い運動、観戦もスポーツのひとつとして、幅広い年齢層の人びとが気軽に訪れて滞在・交流可能な体育館を目指した。
優良田園住宅促進地域に指定された敷地周辺は、大きな環境整備が構想されている。我々は周辺や隣接の保育所、生涯学習・保健福祉複合センターと将来的に連携できるよう、全方位アクセスと開かれた外観を求めた。ただしアリーナはボリュームが大きく威圧感がある上に、衝突や防眩のために堅牢な外壁を要する。そのためエントランスホールを除く1階の外壁を盛り土し、その丘を上がる緩やかな屋外通路を設けた。そして内部にはふたつのアリーナの外周を巡るなめらかな廻廊(以下∞廻廊)を設け、屋外通路が自然と内部につながる外観とした。
スムースな連続形状を求めたのは、∞(レムニスカート)を反復して描くことで心身の統一を目指すシュタイナー教育のフォルメン線描のような、切れ目なく繋がる動作の連続のためだ。この廻廊は、公園の散歩道のように経路に複数の選択肢がある。無目的な人のための空間をファサードにすることで、誰しもが居ることを許されるような、おおらかな建築を目指した。
樹木を避けながら緩やかに上がっていく屋外廻廊
観覧テラスへ繋がる屋外∞廻廊
1階平面図
エントランスホール。2階∞廻廊の床を屋根の梁から吊ることで1階エントランスホールに柱が出ないように計画した。
利用者の足腰の負担を軽減するため、館内の床の大部分にゴムチップを採用した。2種類のカラーチップの配合率を変えることで、∞動線とその他の範囲を緩やかに分けている。
ロゴの形をした特注ソファ
2階平面図
∞廻廊と四角いアリーナの間には会議室やカフェ、キッチン、アリーナ観覧席、談話室、トレーニングルーム、洗濯室、キッズルームといったさまざまな用途の空間があり、施設のいたるところに休憩や応援する人たちのための多様な居場所がある。∞廻廊とアリーナの両方に接しているため、動く人にも留まる人にとっても、様々なプログラムや多様な人々の出会い、交流の促進が可能となるだろう。
窓辺にベンチのある∞廻廊。カフェは観覧席としても利用できる。
カフェ
キッズルーム
ループトラック
トレーニングルーム
2つのアリーナの接点となる廻廊
二極の∞廻廊を歩いていると、結節点を境に次のボリュームから次々に引力を受けるような、独特の求心性と遠心性を感じる。 向かって左の内側ではメインアリーナや各部屋の多様な活動が感じられ、右の外側には田園や総合グラウンドでの人びとの活動や地域の⾵景が次々と現れては消え、結節点を過ぎるとその関係が逆転する。内外や表裏が反転するうちに、上毛のランドスケープと人びとの多様な活動が意識の中で混合し、この場所や建築と自分が、自然と結びついていくのである。
メインアリーナ側の1周150mのランニングコース。利用者が活動的になることを前提として、見通しが良い幅と半径により、衝突や怪我をしにくい設計へと発想を転換した。
屋内・屋外の∞廻廊から遠くの耶馬渓や松尾山の美しい田園風景を見渡せる。
メインアリーナ
サブアリーナ/内部の壁や家具に上毛町産のヒノキ材を用いている。
- Completion
- 2023.06
- Principal use
- Gymnasium
- Structure
- RC+S
- Site area
- 12,521㎡
- Total floor area
- 4,404㎡
- Building site
- 852 Akumo, Koge, Chikujo-gun, Fukuoka
- Structure design
- Yamada Noriaki Structural Design Office
- Construction
- TOYO CONSTRUCTION CO.,LTD.
- Team
- Soichiro Takai, Kenji Sakurai, Takahito Haneda