畑の下のラボラトリー

広島の銘菓「もみじまんじゅう」を製造する老舗和菓子屋、「藤い屋」の新工場である。以前、宮島口に店舗を設計した縁で、全体計画の相談を受けた。敷地は海を埋立てた工業地域で、人間的スケールの欠如した人工的な環境だった。用途地域制度と呼ばれるゾーニングによる弊害と言ってもよいような、無味乾燥とした場所であった。そこで、我々は機械化された工場ではなく、畑が前面に出てきて、生産と研究、加工と消費が一体となった場を提案した。この和菓子屋が地元に密着しながら、人の生活や自然を大切にしながら続けてきた、お菓子作りの精神につながるのではないかと考えたのである。

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まずは菓子の製造と工場見学にとどまらず、つくる人の顔や材料の確かさ、企業哲学を広く伝える場所となるよう、工場と同じ面積の農園「畑LABO」を設けた。畑には小豆や小麦、レモンなどの果樹、アーモンド、オリーブなどのお菓子の材料となる樹木を植えて、食材の研究や食育の場とした。畑中央のローズマリーの畝が続く大地は、それをそのまま切り取って上部に持ち上げて、その下を空間とした。内部の中心にはテストキッチンを据えて、食にまつわる研究や新商品の開発を行い、その両サイドにはここで考案されたお菓子やパンが並ぶショップや食事ができる場所がある。通常、「生産」「加工」「消費」の場といったようにゾーニングによって切り離されている工程が、ここでは一つのサイクルを持って存在している。

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使用者は畑の中の周遊コースを通り、食工場の見学路を廻って「畑LABO」内の建物にアプローチする。建物は畑に潜り込むような佇まいで、客席のテーブルは畑の地面と同じ高さである。研究者やお客さんは普段とは異なる目線で、目の前の食材と対話しながら食事を楽しむことができる。また窓外の柱側面のフックには日干し竿が掛けてあり、収穫した農作物を天日干しすることができる。作物がカーテンとなって陽光を遮ったり、麦の影が天板にテーブルクロスの模様のような影を落としたり、四季折々の作物を通した柔らかな陽光が室内に降り注ぐ。農業と建築の境界がゆるやかに溶け合う中で、作物に包まれ、作物と同じ目線で過ごす建築である。

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Completion
2018
Principle use
Food factory,Cafe,Product store,
Site area
1,772㎡
Total floor area
1,761㎡
Structure
S
Constructor
DAIWA HOUSE INDUSTRY
Location
2-1-1,Itsukaichiminato,Saeki Ku,Hiroshima Shi,Hiroshima
Team
Naoko Sumitani, Yuta Kato