葦垣の家
庭園を巡るように住まう家である。日本には道行(みちゆき)と呼ばれる独特の表現形式がある。能や舞、道中記などにも見られる、経路上の体験を重層していくことそのものを主題とした手法だ。この道行を「築山を中心とした方形渦巻」として取り入れ、家族や訪れた人の記憶に残るふるまいをつくり出した。道中のさまざまな庭の要素との体験によって、生活と庭が密接な関係を持つ空間を目指したのである。
敷地は西から東に下る傾斜地にあるため、LDKを1番高い西側に設けて東方向への視線の抜けを確保した。その両サイドに、「奥」である私的な居室と「表」である玄関や客室を、敷地の高低差に沿って配置した。庭には、各室が暗くならないように築山を設けている。慈照寺銀閣の銀沙灘と呼ばれる白砂の盛土が月光を各棟に配るように、築山は太陽光の反射・分配装置として陽の移ろいや時間の流れを各室に映す。
道行の順に各空間を巡ってみる。それは駅より至る北側道路から始まる。庭の一要素である錆石と葦垣(よしがき)が緑越しに見え隠れして、訪問者を入り口に誘う。「君待つ」の松が出迎え、入隅の亀石の顔が指し示す通りに右折をすると、橋掛かりに出る。北向きにもかかわらず築山からの緑光で木壁に葦垣の影が映りこむ。
向こうの庭に心惹かれながら、漆喰壁に伸びる鏝模様と井戸見窓からの光の先導で右へ曲がると、LDKである。
触感豊かなこんもりとした築山は東向きのLDKに午後も多くの反射光を取り入れる。外から続く漆喰壁は和室と洞穴を内包して外壁の様相を呈している。垂木周囲に桁や面戸が見えないこともあり、垂木が白い構造壁から張り出しているように見え、LDKは半屋外の広縁のようだ。
築山の斜面で寝転んだり、遊んだりする子供たちと自然と向き合える、庭の一部としてのリビングである。その先には葦垣が障子の先の下地窓と化し、私的で落ち着いた空間の始まりを知らせている。そのほか、百日紅の位置と合わせた階段や築山によって庭との距離が近くなった2階など、この家では経路上の体験として庭の要素が次々と現れ、それらが人を寄り道させつつも、奥へ奥へと導くのである。
築山を眺める方形渦巻の空間。出かけるときは築山を中心に左折を繰り返すことによる、外巻きの遠心力が背中を押してくれる。また帰宅時は、北側道路から始まって築山を中心としながら右折を繰り返して、渦巻貝殻にこもるように奥へと入っていく。
出かける気力と、帰った時の安心をつくり出すこと。その家がつくり出す快適さに誘われて、固有のしぐさを共に重ね共感を紡ぐこと。それが家族の絆を強くする。庭を巡るように生活が渦巻く家である。
- Completion
- 2017.10
- Principal use
- Residence
- Structure
- RC+S+T
- Site area
- 850㎡
- Total floor area
- 600㎡
- Building site
- Tokyo
- Structure design
- Yamada Noriaki Structural Design Office
- Contractor
- SATOHIDE
- Team
- Kohei Omori, Takeshi Ito
- Record Houses 2018