Our Lady of Lourdes Chapel
フィリピンはメトロマニラの新興地区、アラバンに位置する、聖母マリア教会と納骨堂である。アラバン川に面した敷地は、丘の上にある。そこでこの場所をゴルゴタの丘に見立て、頂上への坂道を蛇行させて長いアプローチを設けた。それは俗世から心を切りかえる準備のためであり、イエス・キリストが十字架刑を宣告されてからの「ヴィア・ドロローサ(苦難の道)」を追体験するためである。
配置図
その時、ゴルゴタの丘の上にどんな光が舞い降りたのだろうか。「わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てになったのですか」と嘆く主イエスの前に、神は沈黙した。人間の贖罪のために彼の死を黙認したのである。民衆の嘲笑と侮蔑の傍で見ていた聖母マリアの胸中は想像を絶する。愛する我が子を失った悲しみと憤りの一方で、長い苦しみがやっと終わったという安堵感もあっただろう。我々は聖母マリアの名を冠する教会に相応しく、磔死した主イエスを迎える聖母マリアの気持ちを、光にこめることにした。
そこにあるべき建築の姿とはどのようなものだろう。この丘に屹立するような力強い存在は相応しくない。柱を極限まで細くすることも試みたが、やはり建築的に思えた。そこで我々は降臨の形式を求めて、壁をやわらかく床と並行に曲げることで、壁と床の接点を不可視の状態にした。一般的に人間は視野から消えた図形を脳内で補完し、閉じた形態として認識する。そのゲシュタルト効果によって、建築は大地から切り離され得ると考えたのである。そのためには、図像としての強い形態効果が必要だ。ゴシックの教会は森をメタファーしているという説があるが、この教会は、聖母マリアの純潔性の象徴である白い百合の花をモチーフとするべきだと考えた。
高さ30mの尖塔としての筒状花冠は6枚の花弁へと形を変え、その隙間から光が差し込む。花弁の先はサッシから奥行き4mの深い庇空間をつくり出し、この地の厳しい日射の遮蔽と同時に、丘や小川からのやわらかな反射光を室内に拡散させる。
屋根材の三次曲面加工のアルミパネルは、三次元データを基に曲げ率、厚さ、熱膨張率、製作可能寸法などを考慮し、最適なモジュールと割付によって百合の花を表現した。
参道にはキリストが磔にされるまでの道のりを描いた14留の聖画像が並ぶ「 ヴィア・ドロローサ(苦難の道)」が配置された。
丘の形状をできるだけ崩さないように、必要な諸機能は地面の下に埋めてある。地階には聖具保管室、バックオフィス、トイレやキッズルームなどを、祭壇や350人分の客席はすり鉢状に埋設することで、丘の上には十字架しか突出しない形式となっている。
1階平面図
地下1階平面図
天井見上げ。花弁の隙間と頂部トップライトから差し込む光は、聖母マリアの慈愛のように優しく降り注ぎ、刻々と室内を巡る。
天井はコストや現地の施工精度を考慮し、二次曲げした幅150mmの細幅アルミパネルを頂部に向かって張ることで、花脈や伸びやかさを強調している。
午前礼拝時にイエスの後ろの花弁に光が映るように花弁の巻き方を決定した。
チャペル内を無柱空間としつつ、構造の存在を消すことで百合の優雅さを最大限に引き出した構造計画である。
断面図
花弁のような庇が全方位に開き、各方面から訪れる信者を迎える。
チャペル(奥)と納骨堂(手前)はデザインコンセプトを共有し、花びらの庇の曲線が繋がりを生む。
聖母マリアがゴルゴタの丘で刑に処されたイエス・キリストを抱きしめたように、あたたかな慈愛の光で人々を包み込む建築を目指した。
- Completion
- 2023.01
- Principal use
- Chapel
- Structure
- RC + S
- Site area
- 4,713㎡
- Total floor area
- 1,269㎡
- Structure design
- ARUP JAPAN/MANILA
- Construction
- D. M. Consunji
- Team
- Kohei Omori, Hiroki Nakamichi, Ivy Ip
- Best Public Service Architecture Philippines, The International Property Awards