ラジエータハウス

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 密集市街地に建つ旗竿敷地の住宅である。民家に囲まれている敷地のため、施主は塀で囲まれた家を望んだが、風通しの悪さが問題となった。そこで南庭と隣地の境界に、約18mの幅でプライバシーと風の抜けの両方を確保する壁を設けた。そして壁の上部からわずかな水を均一に流し、打ち水効果によって心地よい風をつくる計画とした。

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 エンジンの冷却に用いられるラジエータのコア材と同等の機能を持つ壁である。材質は遮音性を高める質量を持ちながら、水に触れても錆びず、厚さわずか2cmの繊細な形状が可能なGRC(ガラス繊維補強セメント)とした。波型のGRCの表裏に、水が秒速3センチで蛇行しながらゆっくりと落ちることで、気化熱が生じ空気を冷やす計画である。

灌水トレーに取りつけられた灌水パイプの毛細管現象によって、それぞれのGRCに等しく水が届けられる。 photo

灌水トレーに取りつけられた灌水パイプの毛細管現象によって、それぞれのGRCに等しく水が届けられる。

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 室内はLDKの大きな吹き抜けと2階北側廊下のハイサイド窓による煙突効果で、そよ風をうみだす。この家には、庭からの微風を取り込む開口部のある各室や、吹き抜けのダイニング、吹き抜け上部のスタディスペース、2階廊下の窓下のベンチなど、それぞれ異なる風を感じられる居場所がある。

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 風は空気が移動した結果であって、実体はない。にもかかわらず、風を確かな存在として感じ、そこに意思を感じるのはなぜだろうか。かつて日本のどこにでも見られた玄関先の打ち水は、客人や家人のために涼風をおこすものであった。この国には、風鈴の音色と共に人のやさしさそのものとして風を届けるような、繊細な文化があった。エアコンの登場でそのような建築的工夫が消え、日本中の建築が均質なただの箱になりつつある。誰かのためにそよ風をおこし、それを肌で感じること。我々はそのような日本人の感性を建築によって形にしたいと考えている。

Completion
2016.05
Principal use
Residence
Structure
RC + S
Site area
320㎡
Total floor area
223㎡
Building site
Chiba
Structure design
Manabu Ueda
Contractor
AO
Team
Masaya Matsushita, Masaki Hirakawa, Keisuke Minato